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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁
しかし五郎の口にのぼって来るのは〈暗号符字のまごつきに〉という部分だけであって、あとは元歌通りだ。五郎は暗号の下士官で、福は彼の部下であった。この替歌をつくった数日後、福は死んだ。
やがて家がぽつぽつと見え始めたと思うと、その屋根のかなたに海の色があった。さきほどの広闊とした海でなく、湾であり入江である。その入江を抱く左手の山から、鴉の声が聞えて来る。それも一羽ではなく、数十数百羽の鴉が、空に飛び交いながら鳴いていた。
――冥府。
町に足を踏み入れながら、ふっとそんな言葉が浮んで来た。湾に沿った一筋町である。家々の屋根は総じて低い。昔は島津藩の密貿易の港であったので、展望のきく建物は禁じられていた。その風習が今でも残っている。戦災にはあわなかったせいで、町のたたずまいは古ぼけている。彼はふと戸惑う。
〈これがおれの軍務に服していた町なのか?〉
五郎はこの基地に、三週間ほどしかいなかった。吹上浜のある基地からここに移って来て、すぐに戦いは終ったのである。今見る町の様相は、見覚えがあるようでもあったし、ないようでもあった。しかし五郎はたしかにここにいたのだ。