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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

五郎が坐った左側、つまり海と反対側に、明り障子が立ててある。五郎は膝でにじり寄り、そっとあけてみて驚いた。

そこには部屋がないのである。

部屋がなくて、ぽかんと空間だけがあった。見おろすと一階の部屋の畳が見える。今風呂からここに来た時、通った部屋だ。居間とも納戸ともつかぬ、独立していないつなぎの部屋で、隅に布団が積み重ねてある。台所の方角から誰かが膳を持って出て来たので、五郎はあわてて障子をしめ、ちゃぶ台に戻った。階段をのぼる足音がして、老婦人が姿をあらわした。

「いらっしゃいませ」

膳を置き、老婦人はていねいに頭を下げた。

「お疲れでございましたろ。只今主人も参じます」

老婦人が階段を降りて行くと、入れ違いに、主人が登って来た。手に土瓶のようなものを持っている。カラカラだと五郎は思い出した。特殊の形をした酒器で、二十年前に福がどこからか仕入れて来て、アルコール入れに使ったのと、同じ型のものだ。

「どら。晩酌にあずかりもすか」

主人はカラカラから薩摩焼の器に注ぎ分けた。聞くまでもなく、甘ったるい匂いで、芋焼酎と知れた。食膳は割に豊富である。三種類の刺身を次々箸にはさんだ。