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かいじょうのみち
海上の道
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《海上の道(かいじょうのみち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 182,344 字 · 353 頁
せめては別にこうした考えかたもあるというだけを予報しておかぬと、今ある僅かな民間伝承も消え埋もれ、是を我々の新たなる覚りに、導いてくる機会は無くなるかもしれない。すなわち一種の発願のために、このたどたどしい小文を書いてみる気になったのである。
日本では応仁の乱後、世上が極度の窮乏と動揺の底に沈んでいた際に、弥勒の信仰が突如として目さめてきたらしく、弥勒二年という私年号が、弘く東国の各地に使用せられていた証跡がある。富士山北麓の『甲斐妙法寺記』、下総香取神宮の『録司代家文書』、その他飛び飛びに発見せられた数箇所の例は、いずれも書札作成の日附として記入せられたものであった。前年改元の都の沙汰が、辺土に伝わって行った状況に照し合わせると、ここに二年とあるが殊に真実性をもつように受け取られる。すなわち一時は少なくともそういう年号が、新たに制定せられたものと信じて、これを用いた人が多かったのである。この弥勒二年丁卯という年が、後柏原天皇の永正四年、西暦一五〇七年に該当することにはまず疑いがない。単に干支が一致するという以上に、記録の上からも推定し得られ、また土地の人々が誰も彼も、十干十二支の年繰りを誤るということは有り得ないからである。