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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

それはそうと、たつた今、しゆうとはなにを言つたか? それに自分は何と答えたか? しゆうとはピヤノを売ることに反対なのか? それとも、新聞広告をしたことがわるいと言うのか?

「ちよつとひと言、相談してくれるとよかつたねえ。なにしろ……」

あとは、ぶつ/\と、よく聞えない。

「えゝ、そりやもうそれが当り前ですけれども、ほんと申しますとね、おかあさま、あたくし、てつきりお許しがでないものときめてましたの。まあ、それだけはとつてお置き、つて、そうおつしやるにきまつてると思いましたの。そういうお心持がわかつているだけに、あたくし、まあ、これは自分のためにあるものつていう意味で、勝手なまねをさせていたゞきましたのよ。ね、ですから、なんにもおつしやらないで、おかあさま……」

そう言い終つて、康子は、指の先でピヤノのそここゝにたまつたほこりをぬぐつている。

「あんたがその気なら、なにもこつちは反対することはないさ。たゞ、いきなりえたいの知れない男がやつて来て、お宅のピヤノは売物でしよう、なんて言われると、わたしや、ヒヤッとするからね」

この言い方は、明らかに効き目があつた。