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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

三

たゞ、尾関ひとりがとき/″\特徴のあるバスで話しかける。

「ぼくもあゝいう連中と飲むのははじめてだが、アトリエの酒宴もなか/\乙なもんだ。君も遠慮なんかしないで飲めばいゝのに」

「…………」

「あの、なんとかいう女彫刻家は、ありや相当なもんだ。あの社会は才能がものをいうらしいから、みんなをおさえてたじやないか。ところで、君は、本来はモデルという柄じやないし、あゝいう女性と仲よしになりたまえ。どうしてそんなに黙つてるの?」

三

こゝでひと言、説明をしておかねばならぬことは、北原ミユキがどういうふうにして、この江原久作のアトリエへ来たかということである。それは言うまでもなく、尾関昇が連れて来たのである。彼女は、尾関の病気の性質を知つてから、彼をなんとなく信用しなくなつたけれども、やはり気のおけぬ、面白い話相手として、店へくれば愛想よくあしらい、今後の身のふり方について軽い相談をもちかけなどした。東京へ出たいと、彼女はしきりに言つた。すると、ある日、尾関は――東京へ出たければ方法はなくはないが、それにしても、いつたんからだを落ちつけるところが必要だ。それには、ごく親しい友人で彫刻をやつている男が、大きなアトリエのついた家に住んでいて、たしか母親と女中と三人暮しだから、一人や二人なら頼めばおいてくれるだろうと思う。