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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

かたちは乱れてはいなかつたが、口だけは乱暴になつた。ふだんはつゝしんでいる国ことばをまるだしに、さん/″\、男性ば倒をやらかした。それは、中年の酒客にとつて、思いがけぬ座興となつた。どつとあがる笑い声に、ほかのいくつかの席は、粛然とさえする気味があつた。

「あんたたちは、えらそうな顔しとつて、それでみんな秘密の病気もつとりやせん? 汚らわしいわ」

そこでまた、とん狂な男たちの笑い。

「戦争裁判みたいに、みんな、どいつもこいつも調べあげてなあ、それこそ絞首刑にしたら面白いだに」

「絞首刑か、ワハッハッハッ」と、しばらく笑いがとまらぬ男もいた。

女主人は女給の一人と、この北原ミユキのふだんと違つた様子について、ひそ/\話をしている。

どの席も、今や、彼女を中心とする語尾でにぎわつた。

信州で国民学校の先生をしていたのだということは、なじみの客にはもう知れわたつていたが、平生はどつちかといえば固くるしいところのある女として、あまり相手にするものもなかつたのに、さては、なにか身の上に変つたことが起つたなと、早くも察するものは察して、もの好きらしい眼があちこちから彼女の方にそゝがれていた。