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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

六

片づけものを今のうちにすこししておこうと彼女は、あきざらや茶わんを盆にのせはじめると、江原は、

「そんなものは、あすにしたまえ。婆さんが来てからでいゝよ。それより、ちよつと話があるんだ。尾関はいてもいゝよ」

六

「尾関はいてもいゝよ」と言われて、尾関昇は、江原の顔をじつとみた。

「いてもいゝよ、か。いなくつてもいゝんだな」

彼はそう言いながら、ぶら/\そのへんを歩きまわつていた。

「なにを言つてやがる。おれは北原君に話があるんだ。お前にも関係があるかも知れんから、そん時はいた方がいゝと思つたんだ。どつちでもいゝよ。お前にはあとで話してもいゝ」

「ふむ、そうか。北原君のことでおれに関係があるかもしれんというと、ちよつとおかしく聞えるが、いつも言うとおり、北原君の一身上の問題は、だれがきめるのでもない。北原君自身がきめるんだ。おれは、たゞ、行きたいというところへ、北原君を連れて行くだけの役目だよ。もつとも、どこへ行きたいのか、ご本人にもわからんことがあるがね」

「そういう場合、君は、こつちへこいという合図をするのかい?」

「いや、しない。決してしない。たゞ、彼女が無意識に求めている方向を、これではないかと指し示すことはある。