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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁
九
こういうことをおつしやるんですよ。でも、いゝお仕事のお手伝いができなさるんだから、そういうことに興味がおありになるんだつたら、ずつとお続けになるといゝわ」
井出康子が、やさしく言つてきかすように、彼女へ眼をうつすと、
「あら、奥さま、わたし、ちつとも興味なんかないですわ。いくらかの好奇心と、お義理とで、承知しましたの。わたし、後悔してますの、ほんと、ほんと……」
と、彼女は、泣きだしそうな顔になり、井出夫人の方へいすを引きよせる。
江原久作は、じつと下を向いて、彼女の冷静を失つた態度を、それとなくうかゞつていたが、
「奥さん、ぼくからはつきり申しますが、北原君は、ぼくには絶対に必要なひとです。これは、ただ、仕事のうえというだけでありません……」
こゝまで言うと、北原ミユキは、立ち上つて叫んだ――
「うそ、うそ……、このひとの言うことはうそです」
九
北原ミユキは井出夫人のひざにすがつて、叫びつゞける――
「ねえ、奥さま、おねがいです……どうぞわたしを助けてくださいませ……この家から連れだして……いま、すぐに……。ねえ、奥さま、わたし、もう、こゝにじつとしていられません……。