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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁
道さえわかれば、と彼女は駅へもどつて、たつた一人の駅員に、こゝの陸軍工しようの技術部を訪ねたいのだが、道順は……言いかけると、もう中年の、肩のおそろしく怒つた駅員は、なにやらぼり/\と口の中で音をさせながら、
「じようだんじやない、こんな時間にあの道が歩けるもんかね。以前はバスがあつたんだがね、終戦後、それも休んでるから、みんな歩くんです。もう工員もたんとおらんしなあ。幹部の将校が二、三人残つとるらしいね。だれを訪ねるんです、いつたい?」
だれときかれて、名前を言つたものかどうかと迷つた。
「えゝちよつと……」
と、彼女は考え込む。
「もう、八王子へ引返す電車はございませんね」
「上りの終電車は時間通り、こゝは廿時廿六分きつかりに出ましたよ。下りはなにしろあの通り延着ですから、こゝから折り返しで終電を出したんです。そうだね、明日の朝まで待つしかないでしようね」
「この町には宿屋なんぞございますかしら?」
「さあ、この町にはどうかね。あつたにしても、探すのは骨だね。なんしろ、街道まで出にやならんが、これも道がやゝこしいですよ。倉庫ばか、あつちこちに建つとつてね。