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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

……その日、地上では研究所の所員たちが、この不具者の黒吉が、一体どんな「飛下り振り」をするか、と固唾をのんで、爆音を青空に流して快走する銀翼を凝乎と見詰めていた。

飛行機は、硬直したトンビのような恰好をして廻っていた。

この旧式練習機は、操縦士からの命令を聞く為めには、耳に伝声器を挟んでいなければならなかった。

「オーイ」

ひどく大きな声が、蚊のなくように、黒吉の鼓膜に響いた。あたりがあまり喧音に満たされているので、その声が大きいのか小さいのかハッキリしなかった。

「東北風が十米位あるから……飛行場が右に見えたら飛下りる……恰度飛行場に流れて行くだろう……も少しだ……いいか、オーイ、用意……」

操縦士の声が、とぎれとぎれに流れて来た。

黒吉は、静かに伝声器を耳から外し、バンドを外した。そして、シッカリ背中に背負ったパラシュートを、手を廻して撫ぜながら、眼を潰った……。

眼の底には何もなかった。怖くもなかった……そして、又静かに眼を開けると前方の操縦士が、キラリと飛行眼鏡を光らせて振返りながら、手を振っていた――。

地上の所員の眼に、飛行機がきらりと光った。