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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

二ノ二

それで、つと眼を伏せて仕舞う彼だった。

黒吉は、自分でさえ、このひねくれた気持を知りながら、尚葉子への愛慕と伴に、どうしても、脱ぎ去る事が、出来なかった。

×

思い出したように、賑やかなジンタが、「敷島マーチ」を一通り済ますと、続いて「カチウシャ」を始めた。フリュートの音が、ひょろひょろと蒼穹に消えると、その合間合間に、乾からびた木戸番の「呼び込み」が、座員の心をも、何かそわそわさせるように、響いて来た。

「さあ、葉ちゃんの出番だよ」

「あら、もうあたしなの、いそがしいわ」

「いそいで、いそいで」

葉子は周章てお煎餅を一口齧ると、衣裳部屋を飛出して行った。

恰度、通り合せた黒吉は、ちらりとそれを見ると、何を思ったのか、その喰かけの煎餅を、そっと、いかにも大事そうに持って行った。

二ノ二

葉子が、喰いかけて、抛り出して行った煎餅を、そっと、拾って来た黒吉は、座員達が、こってりと白粉を塗った顔を上気させながら、忙しそうに話し合っている所を、知らん顔して通り抜けると小屋の片隅の、座蒲団が山のように積上げられてある陰へ来た。

黒吉は、経験で、舞台が始まると、こんなところには、滅多に人が来ない事を知っていた。