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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

八ノ二

大傷をしながら、いつになく、心が浮々する――。

八ノ二

いつものように、又、回診の医師がはいって来た。

「どうだね……」

厚い近眼鏡の奥で、老医が柔和に笑った。

「ええ、だいぶいいです」

「そうか、それはよかったな……いい具合だった」

「いつ、退院できるですかね、……」

「まだまだ。そうあわてては不可んよ。暢気にしていたまえ」

「でも、でも俺にゃ金がないんで……」

「はっははは、君、そう心配しなくていいよ、ここは施療院だから――」

「施療院――?」

黒吉には、そんな言葉の意味が、なんだか解らなかったけれど、

(たいして金の不用ないところなんだな――)

と推察することが出来た。そして、

「じゃ――」

と去りかけた医者に、

「先生、どこか曲馬団を、ご存じでないかな」

「ふん、なぜだね」

老医は振かえった。

「その――、ここを出れば、喰わなきゃならんもの……」

黒吉は、哀願するように、眼鏡の奥の瞳を見上げた。

「君、まだあの曲芸をするつもりなのかね、……その片足で――」

「えッ」

黒吉は、愕然とした。

「片足!」

この一言は、まさしく青天の霹靂であった。

黒吉は、何かわからぬゾッとした怯れに、ぶるぶる顫えながら、思わず腕の痛みも忘れて、胸から腹、腹から腰と撫ぜて見た。