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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

十一

なんという異状な恋愛であろう――なんという激しい葉子への思慕であろう――。あの曲馬団の暴雨風の夜の最初の接吻! それは黒吉がまだ十の時であった……。

黒吉には、その哀れな傀儡であった由子を忘れても、葉子を忘れることは出来なかった。

(葉ちゃん……)

黒吉は、ほうり落ちる泪の中で、幾度も幾度もその名を呼び続けた。

十一

それからの黒吉は、研究所の所員たちに嗤われ、肝腎の葉子にすら蔑まれながら、それでも、僅かな暇を偸んでは、不自由な足を引ずって、あの千鳥食堂に、通いつめるのだった。

あの、曲馬団が解散する頃には、もう移り気な葉子からすっかり見離されていた黒吉が、なお一層醜怪な容貌となってしまった今、改めて葉子の歓心を買うことは、とても出来ない相談だった。

(一度は、ともかく、家へも来てくれたのだから……)

と黒吉は、胸の中で思っていたのであろうけど、葉子にしてみれば、移り気の多い女の特徴として、何気なく、半ば無意識に寄ってみたまでで、まして、曲馬団時代の競争者、由子との睦まじげな様子を、わざと見せつけられたような気がし、

(ふん……)

と反感を増しこそすれ、この貧しい醜少年に笑顔一つ見せる義理はなかった。