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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁
十一ノ五
「オーイ、用意……」
突然、送話管を通して、操縦士の太い声が伝わって来た。ハッとした黒吉は、座席から伸上って遙か下界を見下すと、箱庭のような風景が、いかにも葉子の死体を待ちうけているように、手を拡げて、ゆたりゆたりと踊っていた。
――黒吉は、発狂したのであろうか。いきなりパラシュートを外すと、飛行帽をかなぐり棄て、飛行服までり取ってしまうと、グット邪慳に、葉子の死骸を抱き上げた、と同時に、
(あっ――)
と思った瞬間、この銀色の機体から、シッカリ抱合った全裸の男女が、遙か下の遠い遠い地球目がけて、まるで爆弾のような凄まじい勢で、どこまでもどこまでも、墜落して行った……。
×
黒吉は、満足だった。
いままで毎日見なれて来た山や川や森や畑が、この自分だけ二人を、優しく抱擁してくれるように思えたのだ。それに、何んという神の祝福であろう、空気の断層をつんざいて転落する自分の両腕には、地獄までも離すまいと、力の限り葉子を抱きしめているではないか――。
黒吉の、あの空を飛ぶ時の、不可思議な白昼夢は、いまや現実よりも明瞭に現われて来たではないか……。