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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

魔像

一

寺田洵吉は今日も、朝から方々職を探してみたが、何処にもないとわかると、もう毎度のことだったが、やっぱり、又新たな失望を味って、当もなく歩いている中、知らず知らずに浅草公園に出ているのであった。

――これは寺田の「淋しい日課」だった。郷里で除隊されると、もう田舎で暮すのがバカバカしくてならず、色々考えた末、東京のタッタ一人の叔父を頼って、家を飛出しては来たものの、叔父の生活とて、彼を遊ばせておくほどの余裕はなかった。そして、彼の淋しい日課は始まったのだ。

寺田は、溜息と一緒に公園へ出ると、なかば習慣的に瓢箪池に突出した藤棚の下に行き、何処かでメタン瓦斯の発生ような、陰惨な音を聴きながらぼんやりとして、あくどい色をした各常設館の広告旗が、五彩の暴風雨のように、やけにヒステルカルに、はたはたと乱れるのを見詰めていた。

(相変らず凄い人出だなア――)

そう我知らず呟いた時、フト思い出したのは、此処で二三日前、偶然に行逢った中学時代の同級生水木のことだった。

それと同時に、

(あの水木のところへ行けば、何かツテがあるかも知れない)

と、思いつくと、それを今迄、忘れていたのが、大損をしたような気がし、周章てよれよれになった一張羅の洋服のあちこちのポケットを掻き廻してみた。