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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

喜村が、そういいかけた時に、傍らでハルミが抱いていたポケットテリヤが、急にくーん、くーんと泣き出した。

「あ、小便かな。君、おろしてやれよ、おい、君ったら……」

ハルミは、まだ抱いていた。

「ねえ、一寸――、一寸――」

見かねた美都子が、その小犬を抱きあげてやると、俯向いていたハルミは、そのまま顔も上げないで、両手をだらんと垂らしてしまった。

「あらッ」

「寝ちまった?」

三人とも、ぎょっとした。

静かに小犬と遊んでいたと思っていたハルミが、いつの間にか華やかなナイトドレスのまま、椅子のなかにぐったりとしている。顔を俯向けているのが、一寸見ると膝の上に小犬をあやしているように見えたのだ。

「おい、おいったら……」

村田が肩をゆすったけれど、ハルミは一向に眼を覚ましそうもない。

(眠り病――。死か、直ってもバカか)

村田も喜村も、相当廻っていた酔が、すーっと足元から冷たい床に抜けて行った。

それでも、医者の端くれらしくハルミの脈を診たりしていた村田は

「いけねえ、眼筋痲痺を起してる――」

そういうと、あわてて奥の洗面所の方に、手を洗いに駈けて行った。

床に下された小犬は、別に小便をするでもなしに、くーん、くーんと泣きつづけていた。