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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁
地図にない島
一
痛いばかりに澄み切った青空に、赤蜻蛉がすーい、すーいと飛んでいた。
「もう終りだね、夏も――」
中野五郎は、顔馴染になった監視員の、葦簾張りのなかに入りながら呟いた。
「まったく。もうこの商売ともお別れですよ……」
真黒に陽にやけた監視員の圭さんが、望遠鏡の筒先きに止まっている赤蜻蛉を、視線のない眼で見ていた。
夏の王座を誇っていたこのK海水浴場も、赤蜻蛉がすいすい現れて来ると、思いなしか潮風にも秋の匂いがして来た。波のうねりは、めっきり強くなったし、びっしりと隙間もないほど砂浜を彩っていた、パラソルやテントの数が、日毎に減って行った。いままでが特別華やかだっただけに、余計もの淋しかった。
「どれ……、又かしてもらうかな」
「…………」
圭さんは、一寸頷くように眼を動かしたきりだった。
中野は、そこに設えつけの、望遠鏡の接眼部を拭うと、静かに眼に当てた。
いつものように、水平線の方からずーっと見渡した。沖には肉眼では見えにくいが、舟が二艘出ていた。しかし、それきりだった。
こんどは右手の岬の方に、廻して見た。
――この、望遠鏡を覗く、というのはまあ一種の役徳ですよ、相当『珍』