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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

三、夕暮は罌粟の匂いがする

私も口を挟んだ。

「ええどうなさったんでしょう――困ったわ……」

その時私は、なんともいえぬ不吉な予感を覚えた。

「変だナ……」

「どうしたんでしょう……」

主任看護婦はこの二階のサン・ルームの手摺から乗出すように、暮れかかるサナトリウムの全景を、じーっと見廻した。

諸口さんは目を半分閉じて、番茶を啜っていた。

三、夕暮は罌粟の匂いがする

私は食事をすますと、その足でマダムを見舞った。マダムは真白いベッドの中に落ち窪んだように寝、蒼白な額にはベットリと寝汗をかいて、荒い息吹が胸の中で激しい摩擦音をたてていた。

若い看護婦が一人、どうしたらいいだろう、というように、濡れた手拭を持った儘、しょんぼりと椅子にかけて、マダムの寝顔を見守っていた。

私はふと落した視線の中にベッドの傍の金盥を見つけ、そして、それになみなみとたたえられた赤いものを見ると、何んだかとても悪いことをしたような気がして、その儘、あたふたと部屋を出てしまった。

部屋を出ると、入口のところに諸口さんが立っていた。

「どお……」

「……」

私は黙って首を振ると、長い廊下を歩き出した。

(駄目だ……)