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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

が恐ろしいほどの明瞭さを以って、空を飛ぶ黒吉の瞼の裏に飛散るのだった。

黒吉は、あの葉子とのいた事を胸に持っていようが、いまいが、日に尠くとも一度は、空を飛ばなければならなかった。

空を飛ぶ時の彼――、それは全く、一本の神経も無駄には出来ない、極限まで引伸ばされた鋼線のように張りきった、澄みきった、無我の一瞬である。

(それなのに、どうして暢気らしく、夢なんか見るんだろう)

これは、とても急には、解決の出来そうもない問題だった。

(脳味噌に汚点が出来たのかな)

そんなことを、真面目に考えても、可笑しくなかった。

その幻は――、とてつもないことが浮ぶのだ。名も知らぬ雑草が、ぐんぐんと伸びて、パッと尨大な深紅の花が咲く、と見るまに、ぽとりぽとりと血の滴るように葩が散って仕舞う、或は、奇岩怪石の数奇を凝らした庭園の中を、自分が蜻蛉のようにすいすいと飛んでいる。又は、ああ、自分は、いつ鼠になったのであろうか。真闇な、生暖かい地の底を、どこまでもどこまでも掘って行かなければならないのだ……。

だが、こんな夢ばかりならまだいい。

七ノ二

そんな、他愛のないものばかりなら、何も恐れることはない。