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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁
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出番になると黒吉は、ピッタリ身についた肉襦袢を着て、僅かばかりの観客に、流すような目礼をすると、ジッと天井のブランコを睨んだ。そして、するすると綱を登りながらも、頭の中は、イヤ体全体は、「良い夢」のことで一杯であった。
やがてブランコが小屋全体をギシギシとゆすって、大ぶれになって来ると、
「エッ!」
すッと、血が退いた、黒吉は虚空へ飛出したのだ。
「あっ――」
と観客の幾人かが、低く呻いた時は、もう黒吉の体が、葉子のブランコに移りきって、一呼吸した時であった。
(ダメだ――)
黒吉は蒼白な額を、片手で拭った。
(駄目だ、駄目だ……)
どうしたことか、今日に限って、あの空に浮く、「白昼の夢」が写らないのだ。
(俺にゃ、予言の力がなくなっちまったんか……)
あれほど恐れていた「白昼の妖夢」が、却って期待に胸を膨らませた今日の黒吉には、どうしたことか現われてはくれなかった。
(よし、もう一度だ)
縺れるように、ブランコに足先きを絡んで垂れ下った葉子の、柔かい手に吊され、ぶらりぶらりと天空でゆられながら、逆流する血潮の中で、黒吉は喘ぎ喘ぎ考え続けた。