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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《あさひの鎧(あさひのよろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 頁

青空文庫

いや側へやって来ないばかりか、片手をあげると山の一方を指し、桂子をかえって誘うかのように、二度も三度も辞儀をして見せた。

「わたしを連れ出そうとするのかえ、でも幾度も云うとおり、わたしは今は行けないのだよ、お経を写さなければならないのだからねえ。……でももうそれも今夜かぎりさ。今夜で済んでしまうのだよ。……明日になったら行ってあげよう。……ね、お前の連れて行くところへ」

また猩々は辞儀をした。

そうしていつまでも同じところに坐り、なつかしそうに桂子を見守った。

桂子は筆をはこばせて行った。

でもどうにも進まなかった。

二十一日目の今夜までに、写し終えるという念願のもとに、企てた写経の行だのに、半分もとげられてはいないのであった。

絶えず小次郎の俤が、脳裡を掠めるからである。

しかも何んという××を持った、妄想の小次郎であることか!

強力のある逞しい×で、自分を抱きすくめて××している………そういう姿が見えるのであった。

経机の上の小壺の中には、もう染料がなくなっていた。

桂子は左の袖を捲くった。

白くて滑らかで脂肪づいていて、まことに珠をのべたような、桂子の左の二の腕に、無数に切り傷がついていた。