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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《あさひの鎧(あさひのよろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 頁

青空文庫

娘の姿は見えなくなっていた。

(急いで後を追って行こう)

が、この時眠っていた嬰児が、眼をさまして泣き出した。

(お乳を早く飲ませなければ……)

(どうしよう?)

と進退に迷った。

浮藻は猪小屋の前まで来た。

「咽喉が乾いた! 足が疲労れた! わたしは一足も歩けなくなった!」

燈火の明るい猪小屋を見ながら、そう浮藻は呟いた。

姉と争いをして以来、彼女は湯も水も飲まなかった。半狂乱の心持ちで、かなり嶮しい歩きにくい山の斜面を谷に添って、ずいぶん長い時間走って来た。

小次郎に逢いたさで夢中になっていた彼女は、咽喉の乾きも足の疲労も今までほとんど忘れていた。

が、人の住んでいるらしい、燈火の明るい猪小屋を見るや、にわかにそれが感じられた。白湯ぐらいはあそこにもあるだろう、藁布団ぐらいはあそこにもあるだろう。ほんの少しの間休んで行きたい。せめて白湯で咽喉をうるおしたい。

こうしきりに思われて来た。

浮藻は猪小屋の門まで行った。

戸など外れている猪小屋であった。

ただ部屋の隅に松明があって、それが焔をあげていて、獣の骨や獣の乾いた肉が、とり散らされてある生臭いような床や、丸太と板とで造ってある壁や、切ってある炉などを照らしていた。