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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《あさひの鎧(あさひのよろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 頁

青空文庫

十津川の錦旗

積もった雪を足で蹴上げ、親に似ぬ子の鬼子の大弥太は、寒さも物かは走って行く。

と、嬰児の泣き声がし、それをあやす女の歌声が聞こえた。

泣きそ、な泣きそ

和子よ和子よ……

十津川の錦旗

「や」

と大弥太は足を止めた。

こんな場合ではあったけれど、寒気のはげしい雪の夜に、嬰児の憐れな泣き声と、母親らしい若い女の、これも憐れな歌う声を聞いては、立ち止まらざるを得なかったらしい。

「どこだ?」

と、四辺を見廻してみた。

辻堂が道端に立っていて、黒い影を雪に印していたが、その中から声は来るようであった。

過ぐる日大塔宮護良親王が、戸野の館へおいでの前に、休息あそばされた辻堂なのである。

(乞食だな、嬰児をかかえた乞食)

惻隠の心はなかったが、女に眼のない大弥太であった、どんな女の乞食がいるのか? こう思って辻堂へ近寄って行った。

狐格子へ手をかけて、格子の間から覗き込んだ。

とたんに竹の杖が突き出された。

「わッ」

と、大弥太は脇腹を抑え、三間ばかりケシ飛んで、クルクルと二度ばかりブン廻ったが、そのまま倒れて、ノビてしまった。

森閑として物音もない。

が、遙かの谿間から、ゴ――ッという音が幽かに聞こえた。