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すみだがわ
すみだ川・新橋夜話 他一篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《すみだ川・新橋夜話 他一篇(すみだがわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 44,378 字 · 88 頁
秋になったと思うと唯わけもなく気がせわしくなる。
蘿月は俄に狼狽え出し、八日頃の夕月がまだ真白く夕焼の空にかかっている頃から小梅瓦町の住居を後にテクテク今戸をさして歩いて行った。
堀割づたいに曳舟通から直ぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先の分らないほど迂回した小径が三囲稲荷の横手を巡って土手へと通じている。小径に沿うては田圃を埋立てた空地に、新しい貸長屋がまだ空家のままに立並んだ処もある。広々した構えの外には大きな庭石を据並べた植木屋もあれば、いかにも田舎らしい茅葺の人家のまばらに立ちつづいている処もある。それらの家の竹垣の間からは夕月に行水をつかっている女の姿の見える事もあった。蘿月宗匠はいくら年をとっても昔の気質は変らないので見て見ぬように窃と立止るが、大概はぞっとしない女房ばかりなので、落胆したようにそのまま歩調を早める。そして売地や貸家の札を見て過る度々、何ともつかずその胸算用をしながら自分も懐手で大儲がして見たいと思う。しかしまた田圃づたいに歩いて行く中水田のところどころに蓮の花の見事に咲き乱れたさまを眺め青々した稲の葉に夕風のそよぐ響をきけば、さすがは宗匠だけに、銭勘定の事よりも記憶に散在している古人の句をば実に巧いものだと思返すのであった。