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すみだがわ
すみだ川・新橋夜話 他一篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《すみだ川・新橋夜話 他一篇(すみだがわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 44,378 字 · 88 頁
兄よ妹といふにいはれぬ恋中は……。」と「小稲半兵衛」の道行を語る。
蘿月は稽古のすむまで縁近くに坐って、扇子をぱちくりさせながら、まだ冷酒のすっかり醒めきらぬ処から、時々は我知らず口の中で稽古の男と一しょに唄ったが、時々は目をつぶって遠慮なくをした後、身体を軽く左右にゆすりながらお豊の顔をば何の気もなく眺めた。お豊はもう四十以上であろう。薄暗い釣ランプの光が痩せこけた小作りの身体をばなお更に老けて見せるので、ふいとこれが昔は立派な質屋の可愛らしい箱入娘だったのかと思うと、蘿月は悲しいとか淋しいとかそういう現実の感慨を通過して、唯だ唯だ不思議な気がしてならない。その頃は自分もやはり若くて美しくて、女にすかれて、道楽して、とうとう実家を七生まで勘当されてしまったが、今になってはその頃の事はどうしても事実ではなくて夢としか思われない。算盤で乃公の頭をなぐった親爺にしろ、泣いて意見をした白鼠の番頭にしろ、暖簾を分けてもらったお豊の亭主にしろ、そういう人たちは怒ったり笑ったり泣いたり喜んだりして、汗をたらして飽きずによく働いていたものだが、一人々々皆死んでしまった今日となって見れば、あの人たちはこの世の中に生れて来ても来なくてもつまる処は同じようなものだった。