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「もくせい」ごうのなぞ
中谷宇吉郎集 第六巻
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《中谷宇吉郎集 第六巻(「もくせい」ごうのなぞ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,784 字 · 269 頁
別に誰に迷惑のかかる話でもない。
六甲の御宅は、阪神沿線から大阪湾を一望に見下した、数寄屋造りの凝った家であった。湯川さんは、習作の山水をたくさんに持ち出して見せてくれた。中にこの座敷からの眺望という珍品もあった。「写生はなかなかむずかしいですね。水平の景色を垂直に写像するのが、どうも巧く行かない」などといっていた。
周囲は鬱蒼たる樹木につつまれ、岩は白く空は澄んでいた。昼間でも物音一つ聞えない閑けさである。湯川さんは、この家が気に入っていて、京都大学へ移ってからも、非常な不便を忍んで、大分長い間、ここから京都まで通っていた。阪大の助教授時代は、もちろんこの家から通っていたので、中間子の理論は、いわばこの家から生まれたのである。というよりも、この家をつつむ夜の静けさから生まれたといえよう。
湯川さんが、夜更けてから、床の中で、月並でない全く新しいことを考えるという話は、今日になって、よい新聞種になっている。しかしその意味は、一般の新聞読者にはちょっと分らないであろう。ひょっとすると、原子核専攻の若い物理学者たちの中にも、その真意のつかめぬ人があるかもしれない。