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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 頁
」
おまんは着流しでやって来た客のために、脚絆などを母屋の方から用意して来た。粗末ではあるが、と言って合羽まで持って来て客に勧めた。佐吉も心得ていると見えて、土蔵の前には新しい草鞋がそろえてあった。
正香は性急な人で、おまんや半蔵の見ている前で無造作に合羽へ手を通した。礼を述べるとすぐ草鞋をはいて、その足で土蔵の前の柿の木の下を歩き回った。
「暮田さん、わたしもそこまで御一緒にまいります。」
と言って、半蔵は表門から出ずに、裏の木小屋の方へ客を導いた。木戸を押すと、外に本陣の稲荷がある。竹藪がある。石垣がある。小径がある。その小径について街道を横ぎって行った。樋をつたう水の奔り流れて来ているところへ出ると、静かな村の裏道がそこに続いている。
その時、正香はホッと息をついた。半蔵や佐吉に送られて歩きながら、
「青山君、篤胤先生の古史伝を伊那の有志が上木しているように聞いていますが、君もあれには御関係ですかね。」
「そうですよ。去年の八月に、ようやく第一帙を出しましたよ。」
「地方の出版としては、あれは大事業ですね。秋田(篤胤の生地)でさえ企てないようなことを伊那の衆が発起してくれたと言って、鉄胤先生なぞもあれには身を入れておいででしたっけ。