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あずさがわのじょうりゅう

山岳紀行文集 日本アルプス

小島 烏水

線上閱讀小島 烏水《山岳紀行文集 日本アルプス(あずさがわのじょうりゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,795 字 · 274 頁

青空文庫

さながら葛飾北斎の富嶽三十六景中の題目であって、小泉八雲に驚異の目を見張らせた光景である。なお見ていると、小さな石一つ、沢の上から落ちて、豆太鼓でも鳴らすような、カラカラ音をさせると見ると、砂煙がぱッと立って、二、三丈ばかりの砂夕立が降る。「さあ、これから、さす(登ること)で」と荷担ぎがいう通り、今度はひた登りに登る。国境に甲斐をまたいで、駿河の領内に入る。ここにも石楠花が枝越しに上からのぞき込む。その天空に浮遊するかの如き、嶮にして美なる林道を「天の浮橋」と呼ぶそうであるが、何よりも喬木林の陰森さにおどろかされる。木曾の森林にでも迷いいったようで、焼砂の富士、「ほうろく」を伏せた形の石山とは思われない。また白衣の道者の一群に、森の出口でゆき遇う。彼らは私たちの「逆廻り」を、うさんくさそうな傍目を使って、あわれむが如き素振りでゆき過ぎた。サッとかき曇った空模様は、何かのたたりを暗示するように思わせた。

桜沢、鬼ヶ沢を越える。富士はもう森林や砂礫をかなぐり捨てて熔岩の滑らかな岩盤をむきだしにしている。どす黒い霧で、ゆく先も脚の下もよく解らない。西風に吹きつけられた水蒸気が、山の胴体を幾重にも巻いて、凝結しているのだと思う。