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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁

青空文庫

彼等は夕方に軽井沢を発って戸隠の山に向った。

この浅路さんは二十六歳の若さで、中野療養所で昭和十四年三月に亡くなるまで、立原に付添って看護をしてくれた。私が療養所を訪ねた日は雪ふりの後で、刑務所の塀にそうて津村信夫と、凍てた雪を踏んだ。そうしてその帰り道もおなじがじがじの雪を踏んで歩いた。

「ね、ありゃもうだめだね。」

と、私は津村にそう言い、津村も肯いて言った。

「とてもあんなに痩せちゃっては、たすかりようがないですね。」

浅路さんは立原の寝台の下に、畳のうすべりを敷いて、夜もそこで寝ていた。おとなしいこの娘さんは立原の勤めていた建築事務所の、事務員の一人であったらしいが、立原の死ぬまでその傍を離れなかった。どんなに親しくとも男には出来ない看護と犠牲のようなものが、殆んど当り前のことのように行われ、私もそれを当り前のすがたに見て来たが、それは決して当り前のことではなかった。お嬢さんとかいう人、そしていまどきの人に出来ることではないと思ったが、それは私の思い上りで、女の人はこういう恐ろしい自分のみんなを対手にしてやるものを沢山に持ち、それの美徳を女の人は皆はしくも匿して生きているように思われた。