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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

戞々と、石を蹴り、木の根を踏む馬蹄の音が、はや耳を打って来たかと思うと、馬印、旛、旗さし物など、治部大輔今川義元の本軍は、見るまに、田楽狭間の芝山と低地を、兵と馬と旗と幕とで埋めてしまった。

義元は、人いちばい汗かきのほうだった。日頃はその汗をすらかくことのない生活に馴れているので、体は贅肉と脂肪に富み、四十を過ぎてからは、目に立って肥えていた。

その治部大輔義元には、こんどの軍旅は、少なからぬ苦痛であったに違いない。肥えたわりに背の低い胴長な体に、赤地錦の直垂、大鎧をつけ、胸白の具足に、八龍を打った五枚錣の兜をかぶった。

今川家重代という松倉郷の太刀、左文字の脇差、籠手脛当、沓などとを加えれば、十貫目をも超えるだろうと思われる武装であり、膚へ風のはいる隙まもない装いだった。

炎天を、騎行して来たので、鎧の革も小貫も焦けきっていた――大汗にまみれて彼は今、ようやくたどり着いた田楽狭間の芝山で駒の背から降りた。

「ここは何という土地ぞ」

義元は、幕へかくれるとすぐ訊ねた。

彼が、右すれば右、左すれば左へと、近習、侍大将、参謀、旗本、典医、同朋の者などが、ぞろぞろと護って歩いていた。