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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 頁

青空文庫

兵略上、毛利方と遠く隔てたこの二陣は、すでにそこに在る必要を持たないものであった。高松の城にはもはや抗戦すべき守将もなければ精神もない。――なお万一の不測にそなえて依然うかとは動かし難いものは、毛利方の直前にある石井山の本陣と、足守川の線に沿う抑えあるのみであった。

夜をとおして宇喜多勢は岡山へ撤退していた。けれど秀吉の本軍はまだ一兵も退いていない。もちろん秀吉自身もじっとそこの持宝院にいた。

かくて四日の夜は明け、五日の朝となったが、なお彼はうごかなかった。心はすでに上方の空へ駈けていたろうが、滅多に陣を払う気色すら見せていない。

一昨日もごろ寝、ゆうべもごろ寝。用事があらば時を選ばず起せといいつけては手枕で横になった。そして今朝、起きぬけに、蜂須賀彦右衛門から受けた報告のひとつは、

「お約定によって、今朝、毛利方から二名の人質を送って参りました」

という件であった。

これも彼の気がかりとしていたことだった。まず毛利に豹変はないとほっとした容子に見える。しかしなお油断はできなかった。なぜならば、京都の兇変を、今朝もまだ彼が知らないものとすれば、たとえ質子を送って来たにせよ、それを知った彼の変心は測り難いからである。