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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(一)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁

青空文庫

医者の薬礼を恐れる彼は、なるべく買い薬で間にあわせて置きたかったのであるが、夜のふけるに連れて疼痛はいよいよ強くなって、彼はもう慾にも得にも我慢が出来なくなった。それでも医者を呼ぶのを嫌って、こっちから医者の家へ行こうと云った。

「それじゃあ私が送って行こう」

伝七がついて行くことになった。強い痙攣で、満足には歩けそうもない佐兵衛を介抱しながら、ともかくも表へ出ると、町には夜の霜が一面に降りていた。伝七は病人の手をひいて、隣り町の医者の門をくぐった。医者は薬をくれて、あたたかにして寝ていろと注意した。礼を云って医者の家を出たのは、もう四ツ(午後十時)に近い頃であった。

「御町内はこのごろ物騒だというから、途中もよく気をつけてな」と、帰りぎわに医者が云った。

その親切な注意が二人の胸にはまた一入の寒さを呼び出した。帰り途にも佐兵衛は手を引かれて歩いた。

「木戸の締まらないうちに早く行こう。番太にあけて貰うのも面倒だから」

風もない、月もない、霜の声でもきこえそうな静かな夜であった。町内にももう灯のかげは疎らであった。佐兵衛は下腹をおさえながら屈み勝ちにあるいていた。