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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

どこまでもついて来る気か、と彼は思う。少年は理髪師に声をかけた。

「こんちゃ。漫画本を読ませって下さい」

五郎は理髪台に乗った。髪を刈っている間、少年は背を曲げるようにして、漫画本に見入っている。時々声を立てて笑う。鏡の中のその様子を、彼は警戒の眼色で見ていた。

散髪が終って、台の背が倒され、髭剃りが始まる。彼はすすけた天井をにらみながら、じっと辛抱していた。彼は床屋がきらいだ。一定時間拘束されるのが、いやなのである。剃刀がじゃりじゃりと音を立てた。剃り終って、背が立てられた。彼はひりひりする顎を撫でながら、鏡を見る。少年の姿は見えなかった。やっと帰ったのか、と彼は思い、代金を払って外に出た。外には自動車が停っていた。前の座席から少年が顔を出した。

「小父さん。お父さんの車を呼ん来たど」

車? 車だって? 五郎は軽いめまいを感じ、そばの電柱につかまった。おれはハイヤーを頼んだ覚えはない。自動車で行けば直ぐだと、少年の口から聞いただけだ。何をかん違いしたのだろう。

「さあ。どうぞ」

実直そうな角刈りの父親が、既定の事実のように後部のドアを中から押す。彼は吸い込まれるように、ふらふらと乗ってしまった。