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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

(これでいいのか。これで――)

不当に取扱われているという反撥が、寝覚めのなまなましい気持を荒々しくゆすっていた。私はひとりで腹を立てていた。誰に、ということはなかった。掌暗号長にではない。私を此のような破目に追いこんだ何物かに、私は烈しい怒りを感じた。突然するどい哀感が、胸に湧き上った。何もかも、徒労ではないか。此のような虚しい感情を、私は何度積み重ねてはこわして来たのだろう。……

私は身体を起し、寝台から飛び下りた。乱れた毛布を畳むために、毛布の耳をひとつひとつ揃えながら、ふと呟いた。

「毛布でさえも、耳を持つ――」

耳たぶがないばかりに、あの田舎町の妓は、どのような暗い厭な思いを味わって来たことであろう。あの夜、あの妓は、私の胸に顔を埋めたまま、とぎれとぎれ身の上話を語った。耳なしと言われた小学校のときのこと。身売りの時でも、耳たぶがないばかりに、あのような田舎町の貧しい料亭に来なければならなかったこと。そのような不当な目にあいつづけて、あの妓はどのようなものを気持の支えにして生きて来たのだろう。妓の淋しげな横顔が、急に私の眼底によみがえって来た。