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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

「甲斐を襲ったのはなに者だ」

――まだ判明いたしません。

「捕えなかったのか」

――船岡どのは、その場で放してやり、顔も名も知らぬ、暗殺のことも忘れてやる、よく思案するがよい、と云われたそうでございます。

「なに者ともわからぬのか」

――今年くにもとより江戸番にあがり、つい三十日ほどまえから、お下屋敷へ詰めていた、ということだけはわかっております。

――申上げます。

「なにごとだ」

――ただいま、伊東新左衛門どの危篤という、使者がまいりました。

――殿。

「聞いた、新左が危篤とは思いがけない、新左が危篤とは、待て、隼人、そのほうすぐにゆけ、すぐにだ」

――なにごとかございますか。

「誓紙だ、三カ条の誓紙を取り戻すのだ」

――誓紙を、取り戻す。

「あれは新左衛門がたって求めるので与えたものだ」

――頂けなければ国老はお受けできぬと申しました。

「彼の強要によって与えたものだし、彼が死ぬとすれば与えておく理由はない」

――しかし、いつぞやの仰せでは、誓紙強要ということで、いつかは役に立てるということでしたが。

「それは新左が生きていてのはなしだ、生きていれば役に立つおりもあるが、死んでしまえばそのおりもなくなるし、誓紙だけ残るとすると却って不利になる」