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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

鏡の中の顔

「隼人、岩沼へ使いにいってくれ、明朝十時、御本家で会いたい、吉岡の処置を決定したいからというのだ」

――いよいよ御罷免でございますか。

「涌谷の書状と、十左の非難がよい材料になる、小野の伊東も出府したことではあるし、ちょうどいい時期だと思う」

――岩沼さまからまた反対が出ることでございましょう。

「岩沼は気の毒な人だ」

――はあ。

「いつも家中のおもわくを気に病み、さりとて正面からおれに楯をつく勇気もない、ぼそぼそとなにか申しては、尻すぼまりに引込んでしまう、いっそものを申さなければよいのだが、黙っているだけの肚もない、右京どのは気の毒な人だ」

――では岩沼へ、お使者に立ちます。

「待て、柿崎と申す浪人者が、船岡へなにを売り込むか、ぬかりなく見張るように固く申付けておけ」

――承知つかまつりました。

「ぬかるなと申せ」

――固く申付けます。

鏡の中の顔

――八方から覗かれている。

と甲斐は思った。

――あの天床も、柱も、壁も襖も、みんな生きていて、その眼でおれを見まもり、その耳でおれの気息をうかがっているようだ。

その寝間の灯は暗くしてあり、家の中はしんと寝しずまっていて、おくみの寝息だけが、断続して、かすかに耳についた。