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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

琴の空音

――さよう備前(大町定頼・下屋敷家老)に申し遣わします。

「咎めもせずに逃がしたとすると、その者は脱走するかもしれぬし、ことによると甲斐が保護をするかもしれぬ」

――船岡どのが、その曲者をですか。

「甲斐はやりかねない、その者が甲斐のやりかたに感動し、脱走して甲斐のふところへとびこめば、甲斐は必ず保護するだろう、彼はそういう人間だ、うん、ことによるとそういう目算で逃がしたとも思える、備前へすぐに急使をやれ」

――さっそく申しつけます。

「おれは席を変える、伊東から戻ったらまいれ、誓紙を待っているぞ」

琴の空音

伊東新左衛門が危篤だと聞いたとき、甲斐は的場で、式部(宗倫)と弓を引いていた。弓を引こうとさそったのは式部であるが、その目的はほかにあったようで、式部はあまり弓を引かず、涌谷(伊達安芸)の横暴について、しきりに訴えていた。

式部は綱宗と同じ二十四歳であるが、綱宗とはちがって、躯も痩せて細いし、中だかでおも長な顔や、神経質そうな眼つきや、やわらかい含み声などが示す、女性的な印象とは反対に、陰気でねばり強い、ひどく執拗な性質をもっていた。

「涌谷の知行はいま二万二千六百石でしょう、じっさいは確実にもっと多い、おそらく二万五千石ちかくはあがるようだ」