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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁
七兵衛は立っていて、万右衛門が抜いた。万右衛門の手に、きらっと刀が光り、七十郎がそっちを見た。万右衛門は月に正面してい、肉の厚い大きな顔の、太い眉と、白い歯とが見えた。
「刀は抜いたときが勝負だぞ」と七十郎が云った。
万右衛門は動かず、七十郎はじっと彼をにらんで、それから微笑しながら、宿の者の一人に、「おい佐平、この二人を宿へ送ってゆけ」と云った。万右衛門が動いた。七十郎は彼を見た。五拍子ばかり万右衛門をみつめていて、それから、棒立ちになっている七兵衛に眼をやり、静かに元の場所へ坐りながら、「伊助はここへ来て酌をしろ」と云った。
宿の者の一人が、近よって来た。
「こうなると主持ちは哀れだ」と七十郎は盃を取って、くすっと笑いながら云った、「おれは斬っても斬られても、迷惑する者も泣く者もない、ところが扶持を貰い、家族縁類があると、そうはいかないからな、――おい佐平、二人を送ってってやれ」
「万右衛門、刀をおさめろ」と渡辺七兵衛が云った。彼は、こっちへ背中を向けている七十郎をにらみ、それからぎごちない口調で訊いた。
「別れるまえに、もう一つ聞いておこう」
「伊助、酒を注げ」