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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁
「あれからいろいろな事が起こって、身辺が御多忙だったからでしょう、詳しいことは存じませんが、父からあらまし聞いております」
「お父上の御心労こそたいへんです」と甲斐が穏やかに云った、「私などは案山子も同然ですが、涌谷さまの御苦労こそなみたいていではございません、お側におられる貴方も、さぞ御心配のことでしょう」
「父は常づね、頼みにするのは船岡どのお一人だ、と申しております」
甲斐は口の中で、いや、と呟きながら、謙遜に一揖し、話しをそらした。
「あれから七年とすると、貴方はもう」
「二十二歳になります」
「御結婚のことはうかがったようですね」
「去年、長男が生れました」
甲斐は祝いを述べ、兵庫は続けて、長男が生れるとすぐ、寺池(伊達式部)との地境の争いが起こった、と云った。
「まるで地境の争いを持って生れて来たようだ、などと云って、父は笑っておりましたが」
「境論の起こっているのは、ここから見えますか」
「いや、赤生津と小里村はこのうしろに当りますし、深谷は向うに見えるあの」と兵庫は東南を指さした、「あれが旭山ですが、あの山の向うにあるのです」
「今日、そこへ内検分の者が来るのです」