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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

おれたちからみれば、あの人たちはどこかで間違っている、この世にありもしないもののために、自分や家族をいさんで不幸にしている、というように思える。つまり世界が違うんだ、そして、おれやおまえは、こっちのこの世界で生きるように、生れついているんだ。

「おまえは黒田という人が好きだ、いまでも好きなんだ」と新八は口の中で云った、「あの人を忘れることは、なかなかむずかしいだろう、だができるだけ早く忘れるんだ、おれといっしょにいこう」

おみやの頭がぐらっとした。支えている手から、頭が落ちそうになり、しかしすぐ元のように静かになった。

「いつまで続くかわからないが、別れるときが来るまで、いっしょにやっていってみよう、おまえの云ったとおり、おれとおまえは似ているらしいからな」

彼は三味線を下に置いた。

いちじく

甲斐は自分の手記に眼をとおしていた。

いま披いているところは、去年(寛文四年)の四月七日の項で、次のように記してあった。

昨日、亀千代ぎみが、初めて将軍(四代家綱)におめみえのため登城した。おめみえは黒書院でおこなわれ、先導役は、老中阿部豊後守、披露役は酒井雅楽頭であった。