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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁

青空文庫

、ほかの者の眼をくらますことができても、私の眼をくらますことはできません、彼は人間が変りました、原田甲斐はもうだめです」

「それは自分で慥かめよう」と新左衛門は云った、「里見十左も同じようなことを云っていた、十左は殆んど船岡を崇拝していたくらいなのに、このまえ来て同じように云っていた、私にはそれが訝しい、これまでもっとも近しかった人間が、そろって船岡から離れてしまう、涌谷さま、松山、そこもと、十左、そして私も、青根このかた私も同じように考えていた、これはなにかある、これにはなにか理由があると思うのだ」

「赤い花を見れば、誰の眼にも赤く見えるものです」

新左衛門はどきっとしたような眼で、七十郎を見た。赤い花、という言葉が、慶月院の云ったことを、思いださせたのである。そしていま七十郎は、誰の眼にも赤い花は赤く見えると云った。もちろん譬えではあるが、甲斐から離反する人たちが、同じ色しか見ていない、という意味にもとることができる。七十郎はもっともよく甲斐を理解していたようだ、けれども、甲斐はいま非常の立場にいる。平生の甲斐を見る眼で、いまの甲斐を正しく判断することができるだろうか。