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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
外にもう一人、築地の教会から時々ジャムの罐詰を買いに来る英国人の宣教師が居るから、あの人ならば分るかと思って、此の間いきなり、
“What is Art”
と尋ねてやったら、宣教師はにやにやと笑って、何だか早口にぺらぺらしゃべったが、己には一向聴き取れなかった。己はさすがに極まりが悪くなって、顔を真赤にした。
内のお嬢さんは麹町の高等女学校へ通って居らしって、英語は勿論佛蘭西語もお出来になるし、外国の文学だの音楽だのを嗜んで居らっしゃるようだから、己の質問に解答を与え得る唯一のお方だと云ってもよい。ところが先達、独りで帝劇の芝居を見物にいらしった時、帰りに己がお迎いに行ったので、一緒に丸の内の隍端を歩きながら、
「お嬢様、私には藝術と云う言葉の意味がよく分りませんが、どう云う事なんでしょう。」
と、恐る恐る聞いて見た。其の時お嬢さんは「ふゝん」と、軽く鼻先でお笑いになったきりであった。「わたしにはちゃんと分って居るが、お前のような丁稚風情に説明しても無駄だから。」と云わんばかりの態度を示された。外の人間に此れ程軽蔑されたらば、己はきっと腹を立てるのだが、お嬢さんの斯う云う傲慢な素振りを見ると、却ってます/\頭が下るような気がした。