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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

別れる時に、「では直き帰って来る。」と云い捨てゝ、人目にかゝらぬように、わざと往き来の淋しい崎嶇たる岨道を、八瀬の方へ辿って行った千手丸の後姿が、夜な/\彼の夢の中で、小さく/\遠くへ消えた。今になって考えれば、見す/\命を落す事に極まって居たものを、無理にも断念させなかったのは、自分にも罪があるような気がするけれども、あの折自分が一緒に行ったら、どんな禍が待って居たゞろうと思うと、彼は己れの幸運を祝福せずには居られなかった。

「此れと云うのも、自分には御佛の冥護が加わって居たのだ。自分は飽くまでも上人の仰せを守り、行く末高徳の聖になって、必ず千手丸の菩提を弔ってやろう。」

そう繰り返して、瑠璃光は心に誓った。果して自分が、上人から褒められたほどの鋭い機根を備えて居るなら、いかなる難行苦行にも堪えて、遂には真如法界の理を悟り、妙覚の位を證する事が出来るに違いない。―――こう思うだけでも、けなげな彼の頭の中には、信仰の火が燃え上るように感ぜられた。

やがて其の年の秋が来た。千手が山を下ってから既に半年の月日が過ぎた。満山の蝉しぐれがうら悲しい蜩の声に代り、やがて森の梢がそろ/\黄ばみ始めた時分である。