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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

三

たゞ、一度、今までのさばつていたものをたゝきのめして、虫食い材料を遠くへ運びだすことは必要だと思うんです。こりやあまあ、だれにだつて出来ることです」

「だれにだつて出来るなんて言つてないで、あんたもそれをおやりになつたらいゝじやないの」

「え、わしがかね? そりやあ、いざとなりややりますよ」

彼は、明らかにあわてゝいた。

三

「おもしろいこと……。あたしの眼の前で、あなたがいまになにをなさるか、それが見たいわ。毎日自転車へ乗つて、田んぼや畑をながめてらしつて、それが今のあなたのどういう気もちにぴつたりするの? でも、やつぱり考えてらつしやるのねえ」

井出夫人があくまで今日は批評的なので、市ノ瀬牧人は、苦笑のしつゞけである。

「そうおつしやるなら言いますけど、わしは奥さんの静かな生活を乱さんように、これでも気をつけて話をしとるんです」

「ほんと……あたしの方からそんな話をしかけるなんて……。じや、もう、こゝでは、世間の騒々しいお話はいつさいしないことにして……」

と、井出夫人のそのあとの言葉は、ミシンの音が消してしまう。

「あすはちよつと豊橋まで用事があつて出かけにやならんのですが、なんか序に仕入れてくるものはありませんか?」