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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

七

尾関昇は、にがつぽく口をゆがめた。

七

それからいく日目かの夜、彼女の寝ている部屋の障子がしずかに開いて、黒い人影が忍び込んで来た。しばらく彼女は息をこらしていたが、その輪郭でほゞそれが尾関だということがわかると、急にはね起きて、廊下へ飛びだした。どこへかくれるというあてもなかつた。彼女は無我夢中でアトリエへ通じるドアをおしあけ、中からカンヌキをかけようとしたけれども、金具がどうしても手にふれない。そのうちに、足音が近づいてくるように思い、声を立てるかわりに、中二階へかけ上つて、江原の寝室を軽くノックした。

江原が起きて来て、彼女の肩を抱くようにしてなかへ入れた。

朝になつて、彼女は、泣きぬれた眼を両手でおゝうようにして自分の部屋へ帰り、食事の支度をしにくる近所の婆さんにも、ろく/\あいさつをせず、夜具の上へつッ伏したまゝ動こうとしなかつた。アトリエにもむろん顔を出さなかつた。江原が昼ちかく、ちよつと様子をみに来て声をかけたけれども、彼女は返事をする気にならなかつた。

過ちといえば過ちといえよう。しかし、半分はみずからちかづいた過ちであることを、彼女は知りすぎるほど知つていた。