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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁
奥さまのおそばにいると、なんだか安心してしまつて……」
と、ある日、せんたくをいつしよにしながら、北原ミユキは康子に言つた。
「いまはそれでいゝのよ。でも、これからのことは、あなたもよつぽどお考えにならないと……」
「考えるつていつたつて、もう、考える力、わたしにはありませんわ」
「いく地がないことおつしやつちやだめよ。だから、あたしに考えろつて? そんなら、約束してちようだい――どんなことでもするつて……」
「するわ。えゝ、しますとも……」
北原ミユキは、こゝで、急に快活な調子になる。
「ほんと? ほんとね?」
と、康子は、笑いながらではあるが、真剣に念をおす。
「えゝ、ほんと。奥さまのおつしやることなら、わたし、それ以上のことないと思いますわ」
「そんなに信用されては困るけど、あたし、あなたのために、前から考えてることがあるの。もうずいぶん前からよ。あなたが宇品からお手紙をくだすつたわね。そのころからなの。今なら、それを思いきつて言つてもいゝと思うわ。いろんな行きがかりをいつさいすてゝ、あなた、結婚なさらない?」
その声は、落ちついて、みじんも浮わついたところはなかつた。