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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁
わたしは、四十六よ。いゝお婆さんだわ。虫のいゝ話ね。でも、そういうことつて、ないとは限らないでしよう。あなた、わたしを自由にしてくださる?」
「…………」
この突飛な条件には、市ノ瀬牧人もあきれたかたちであつたが、彼はおもむろに口を開いた――
「よくも考えたね、君は……。本来なら返事なんかしないところだが、面白いから、わしは、その条件を快諾するよ。よろしい、二十年後を見ようよ。君のロマンスの美しい結末を楽しみに、わしは、君の青春を大事にあずかるよ。しかし、言つとくがね。君の心配はまず無用だね。万が一、そういう事態が生じたとしても、君はもう、その時は完全にわしのもんだよ。わしが行けと言つても、君は行かないよ。行かないようにしてみせるよ」
「市ノ瀬さん……」
と、北原ミユキは、想いをこめた調子で呼んだ。
「なんだ?」
「こゝへ来て! もつとそばへ来て!」
市ノ瀬牧人は、腰をあげた。ボートが大きくゆれ、彼はからだの重心を巧みにとりながら、彼女に近づいた。
「なに?」
「立つてないで……」
「じや、こうか?」
と、彼は、どつかとあぐらをかく。そして、両手を彼女の手に重ねる。