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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁
「わたしはあんまり知らないの。このひとがよく知つてるわ」
といつて、隣りをゆり起そうとするので、
「いゝわ、いゝわ、折角やすんでらつしやるんだから……。ワッカナイつていえば、今ごろは雪が積つてるでしようね」
「そりやそうよ。もうこれからは、四月まで雪の中だわ。それに、十一月のガスと来たら……うゝむ、息がつまりそうだ」
表情たつぷりに、霧につゝまれてむせかえる声をだしてみせる。
隣りがこの時、ちよつとからだを動かしたので、すかさず、
「おい、起きなよ。この奥さんが北海道の話聞きたがつてるからさ」
康子は、つりこまれて笑いながら、
「聞きたいんだけど、どこを聞いていゝかわからないわ。かいもく見当がつかないんだから……。こういうところ知つてなさる?」
そこで、ハンドバッグから手帳をとりだし、中園三郎の住所のところを読みあげた。
「知らん、わたし」
と、素ッ気なく、その娘はこたえた。
「あんた、それでも、ワッカナイは二年もいたくせに……」
「だつて、それ、ワッカナイじやないもの。そんな会社の名前、わッし聞いたことないわ」
「なんでもワッカナイからずつとはいるらしいのよ。