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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《火の扉(ひのとびら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 頁

青空文庫

そいつは、ことだ」

と、ちよつと大げさに言つてみせて、

「いや、あすの朝、ひよつとしたらトラックの便がありやせんかな。聞いてみてあげましようか?」

「あちらに電話はございませんのでしようね」

康子は、念のためにたずねた。

「電話どころか、電燈もまだつかんそうですよ。第一、人の住めるようなところじやないや」

それには、康子は驚かなかつた。人が住めようと住めまいと、現に、住んでいるのである。

トラックは当分出ないという返事であつた。

今から歩いて行つて、どれくらいかゝるかしらと、彼女は思つた。たしかワッカナイから三十キロと聞いている。一時間に三キロとして十時間……。道を迷わないとして、たつぷり一日は歩きとおしだ。あすの朝にするよりしかたがない。そう決心をして、細川ヨシ子の方を振りかえると、もうそこには姿はみえない。

店の外へ出てみたが、それはむだであつた。通り一面にたちこめている霧が、すべてをおしつゝんで、人の顔などは見分けがつかぬ。

細川ヨシ子は、いつの間にか、黙つて、この霧のなかへ消えてしまつたのである。

七

トラックの便は当分ないということがわかり、彼女は、それなら道順を詳しく調べて、いつそ歩いて行くよりほかはないと覚悟をきめた。