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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

十ノ三

(む……)

と息がつまって、一瞬視力の鈍った網膜に、サッサと振り向きもしないで帰って行く葉子の、蠢めく腰が写った……。不思議にも、それは、着物も何も着ていない、赤裸々な、悩ましい腰であった。

十ノ三

「黒ちゃん――」

やっと、由子の肩をかりて二階へ上って来ると、由子は、いかにも呆れ果てた、というように、

「黒ちゃん、なんていう醜態なの、――よくもこのあたしに土を塗ったわね……ふん、葉ちゃんが来たからって、何も大周章てで飛のかなくてもいいじゃないの、そんなにこのあたしが嫌いなら、何故嫌いのようにしないのさ、――あたしは不自由で可哀想だと思えばこそ、来てやるのに、つけ上ってさ――ふんだ、葉子じゃないけど、あたしの方でご免蒙るわよ、まったく……。そんな化物みたいな顔して『由っちゃん』が可笑しいわ。よしてよ。もう由っちゃんなんて、呼んで貰いますまい。

……あたしはバカだったわね、なまじっかの同情が、こんな男にいいようにされて、嫌われて……、ふふふふ、おも、面白いもんねエ……大バカの由子――」

噛つくように呶鳴っていた由子も、しまいには鼻声になって、こみ上げて来る啜泣を、袂で押えたまま、出て行ってしまった。